1.GluRδ2欠損マウスの学習の小脳依存性の検討 GluRδ2欠損マウスにおける瞬目反射学習の小脳依存性を検討するために、トレース0課題を学習した後に両側小脳を破壊して記憶保持に及ぼす影響を調べた。その結果、小脳破壊群は記憶保持が顕著に障害されることがわかった。GluRδ2欠損マウスを用いた今回の結果は、昨年報告した野性型マウスにおける学習後小脳破壊(遅延課題および長トレース課題)の結果とほぼ同様であり、小脳皮質に顕著な障害を持つGluRδ2欠損マウスにおいても通常は小脳に大きく依存してトレース0課題を学習すると考えられる。 2.DBA/2マウスにおける同側小脳依存性の増大 これまでのGluRδ2欠損マウスの学習実験および野生型C57BL/6マウスにおける小脳破壊実験の結果から、C57BL/6マウスには小脳依存的学習メカニズムの他に、小脳にあまり依存しない学習メカニズムが存在し、それには海馬などの上位中枢が重要な役割を果たすことが示唆された。そこで、上位中枢に顕著な機能異常を持つDBA/2マウスを用いて同側小脳依存性を検討したところ、C57BL/6マウスでの結果とは異なって、同側小脳の破壊により顕著な学習障害が生じることが明らかとなった。この結果は、小脳非依存的な学習メカニズムに上位中枢が重要な役割を果たすと言う作業仮説を支持している。つまり、DBA/2マウスは上位中枢に機能不全があるために、瞬目反射学習において小脳依存的なメカニズムしか使えなく、そのため同側小脳が破壊されると学習が著しく障害を受けると理解することができる。また、この結果は、前脳機能に異常を持つマウス系統を用いることにより、小脳特異的遺伝子の機能的役割を感度良く検討することができる可能性も示唆している。
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