研究課題
海馬が記憶、学習に関与する重要な部位であると同時に、その傷害が統合失調症、鬱病病などの精神疾患とも関連することが報告されており、行動・機能変異をもたらす機構の解明が望まれている。NMDA受容体は、高いカルシウムイオン透過性と、細胞外のマグネシウムイオン濃度によるイオン透過性のブロックという特徴を持つイオンチャンネルとして知られ、この性質が、LTPの誘導を担うと考えられている。その機能の主軸をなすのがTransmembrane2(TM2)に存在するアスパラギン残基(N595 in NR2A)である。このアミノ酸に変異を導入するとマグネシウムブロックがかからなくなることが報告されている。そこで、ターゲット遺伝子としてNMDA受容体、MR2A遺伝子を用い、マグネシウムブロックを制御しているアスパラギン一個をグルタミンに変換し、特に、海馬歯状回のみでマグネシウムブロックが解除されるマウスを作成し、行動解析を行ったところ、活動量の亢進、プレパルスインヒビションの顕著な減弱、常同行動の増加等の表現型が認められた。これらの行動異常は、薬物投与で作成された精神疾患モデルマウスや統合失調症患者で観察される行動異常のパターンと類似しており、海馬歯状回が精神行動形成に重要な生理的役割を負っていることが示唆された。ついで、マウスに向精神薬として知られているハロペリドールを投与したところ、プレパルスインヒビションの減弱が改善した。また、MK801を投与すると顕著な活動量の亢進を示し興味深いことにドパミン量の亢進が観察され、これらの行動異常は、NMDA受容体のアンタゴニストによって引き起こされる統合失調症様の表現型とよく似ており、NMDA受容体NR2Aの部分的機能障害が海馬歯状回において限定的に引き起こされることが、このような統合失調症類似の表現型につながるということがわかった。このことは、海馬歯状回におけるNR2Aが精神行動構築の調節に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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