研究概要 |
PKN1は、脂肪酸および低分子量GTP結合タンパク質Rho依存性タンパク質リン酸化酵素である。マウスPKN1の遺伝子構造解析およびRT-PCRの結果から、PKN1は選択的プロモータの存在によりPKN1aおよびPKN1bと名付けた二つのスプライシングアイソフォームから構成されることがわかった。スプライシングアイソフォーム特異的抗体を作成し、タンパク質の分布を確認したところ、中枢神経系においてはPKN1aがドミナントであることが明らかとなった。PKN1aノックアウトマウスを作成したところ、マクロ解剖および生殖・摂食行動などに明らかな異常を認めなかった。また、PKN1aのノックアウトによっても、他のアイソフォームであるPKN2およびPKN3の脳における量に変化はなかった。マウスの戻し交配を進めるとともに、京都大学宮川研究室において、各種行動検査をおこなったところ、軽度に能動的回避学習の障害が認められることが明らかとなった。そこで群馬大学の安田先生と共同で海馬スライス標本を用いた電気生理学的検査を行った。PKN1aノックアウトマウスにおいて、海馬CA1領域での高頻度刺激後EPSPの長期増強(long term potentiation, LTP)が正常に観察されたものの、それと同時に、異シナプス性に長期抑圧(long term depression, LTD)が観察できることが明らかとなった。またこの長期抑圧は、フォスファターゼ阻害剤であるカリクリンによって抑制された。期間中マウスの戻し交配を進めて再検したが、この傾向は変わらなかった。
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