我々は脂肪酸および低分子量GTP結合蛋白質Rho依存的セリン・トレオニンタンパク質リン酸化酵素PKN1を発見・同定し、主に相互作用因子の探索を通じて、この酵素の細胞内シグナル伝達経路への位置づけを試みてきた。PKN1aノックアウトマウスの海馬スライス標本を用いた電気生理学的実験を行ったところ、Schaffer collateral高頻度テタヌス刺激後CA1領域においてhomosynaptic long-term potentiation(LTP、長期増強)に伴って、野生型マウスでは認められないheterosynaptic long-term depression(LTD、長期抑圧)が観察されたことを昨年度報告した。このことについて今年度、解剖学的視点および生化学的視点から検討を加えた。23-24週齢マウスについて海馬および小脳における錐体細胞やプルキンニェ細胞のスパイン数や形状等について顕微鏡的検討を行ったが、変異マウスと野生型で優位差を検出することはできなかった。またノックアウトマウス脳をもちいたリン酸化プロテオーム解析を行ったが、現在のところ無刺激状態で優位にリン酸化レベルの異なるタンパク質は同定できていない。また各種リン酸化抗体をもちいた解析において、PKN1aノックアウトマウス海馬におけるGluRアイソフォームのin vivoリン酸化レベルの有意な変化は検出できていない。また今年度PKN1(PKN1a+PKN1b)のkinase negativeノックインマウスを作製した。さらにPKN1アイソフォームであるPKN2についてもconditional KOマウスを作製した。現在これらをもちいて、脳可塑性におけるPKNの機能解析を進めている。
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