研究概要 |
末梢神経系を構成する神経ネットワークは、そのほとんどが神経冠細胞(Neural Crest Cells,神経堤細胞ともいう)によって構成される。神経冠細胞は発生初期において、神経管の背側正中線から移動を開始し、体内をダイナミックに移動した後、脊髄神経節や交換神経節などを作る。しかしながら、神経冠細胞の移動がどのようなしくみによって制御されているのかについてはほとんどわかっていない。我々は、神経冠細胞の移動のメカニズムを明らかにすることを目的として、神経冠サブタイプのなかでも特に遠距離を移動する交感神経-副腎髄質細胞の前駆体(SA細胞とよぶ)に注目している。これまでに、SA細胞の移動経路においてケモカインSDF1やBMP4が発現し、また移動細胞内ではこれらのリガンド受容体が発現することなどを観察している。そこでトリ胚操作を用いてSDF1やBMP4を異所的に作用させたところ、SA細胞がこれらのリガンドに誘引されることがわかった。さらに、RNAiノックダウン法によって、それぞれの受容体であるCXCR4やBMPRが神経冠細胞の移動に重要であることを見いだした。加えてCXCR4のノックアウトマウスにおいても、SA細胞の分布に異常がみられたことから、SA細胞の移動やガイダンスには種を超えて共通の機構がはたらくことが示唆された。SA細胞の一部はさらに腹側方向に移動し、最終的に副腎皮質と会合して副腎髄質細胞に分化する。このとき、皮質細胞で発現する転写因子SF1が髄質細胞との会合に重要であることを見いだしつつある。これらのデータより、SA細胞のダイナミックな移動には複数のガイダンス因子が関与すること、及び細胞移動を停止させるシグナルが移動先の環境によって調節されているなどの新規な知見が導かれた。
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