研究代表者は胎生中期神経幹細胞がアストロサイトへと分化しないのはアストロサイト特異的遺伝子(例えばGFAP)プロモーター中の転写因子STAT3結合配列がメチル化されているためであり、発生進行に伴いこれが脱メチル化を受けアストロサイト分化能を獲得することをこれまでに示している。しかしこの部位が脱メチル化された胎生後期〜成体の神経幹細胞からもニューロンは産出され、STAT3活性化条件下で培養してもニューロンとして存在し続けることから、未知の細胞分化可塑性制限メカニズムの存在が予想された。そこで研究代表者は、メチル化DNAに結合し転写抑制因子として機能するタンパク質群(MBDs)が、神経系ではニューロンでのみ発現していることに着目した。胎生後期あるいは成体神経幹細胞にMBD群の一つであるMeCP2を発現させたところ、通常見られるSTAT3活性化サイトカイン刺激によるGFAP遺伝子の発現誘導が阻害された。この際、MeCP2が高度にメチル化されたGFAP遺伝子のexon1に結合する事も確認された。またMeCP2とは別のMBDであるMBD1についても同様の作用が見られたことから、胎生後期〜成体の神経幹細胞から分化したニューロンにおいては、MBDsが重複した機能をもってアストロサイトへの分化転換を制限しているものと推察された。さらに研究代表者らは、MeCP2を発現させた神経幹細胞を、LIFなどの炎症性かつアストロサイト誘導性サイトカインを高発現するマウス損傷脊髄に移植した場合、アストロサイトへの分化が抑制されるだけでなくニューロンへの分化が促進されることを見いだした。以上の結果は、損失したニューロンを神経幹細胞移植によって補填できる可能性を示唆しており、興味深い。
|