研究課題
動物は、経験に応じて行動を変化させることにより、環境に適応している。このような行動可塑性を担うメカニズムの素過程について、線虫C.e1egansを用いた分子遺伝学的解析により研究を進めている。我々は、感覚情報の統合の制御に異常を示す変異体として、gcy-28変異体を同定している。この原因遺伝子は、多数のニューロンで発現している受容体型グアニル酸シクラーゼをコードする。本年度は、gcy-28変異体が、NaCIと飢餓の条件付けによる化学走性学習にも異常を示すことを見いだした。化学走性学習は、HEN-1/SCD-2経路とインスリンシグナル経路とにより独立に制御されている。そこで、これらの経路との相互作用を遺伝学的に解析したところ、化学走性学習には少なくとも3つの独立した経路が機能していることが分かった。生物が環境に適応するためには、記憶の保持時間が適切に制御されている必要がある。しかし、記憶を忘れるメカニズムには不明な点が多い。誘引性匂い物質ジアセチルに対する順応と化学走性学習をモデルとして、「記憶を忘れにくい」変異体の単離と解析によって、記憶を忘れるメカニズムの解析を行っている。ジアセチルに対する順応の記憶は約2時間維持されるのに対し、化学走性学習の記憶は約15分間しか維持されない。この2種類の行動可塑性を用いてスクリーニングを行い、変異体を合計4株同定した。これらの変異体は、嗅覚順応を用いて単離した変異体も化学走性学習の記憶が30分間以上保持され、反対に、化学走性学習を用いて単離した変異体も嗅覚順応の記憶が8時間以上保持されていた。さらに、中枢で起こる早期嗅覚順応の記憶も、いずれの変異体においても忘れにくかった。一方、匂い物質に対する応答、化学走性行動などには異常が見られないことから、化学走性学習や嗅覚順応における記憶の忘却には、共通の分子が働いていると考えられた。
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