研究概要 |
シナプトトロフィンI(Cblnl)は、腫瘍壊死因子(TNFα)と同じClqファミリー一に属する新しいサイトカインであり、小脳顆粒細胞の軸索(平行線維)から放出され、平行線維-プルキンエ細胞シナプス形成・維持と、機能的シナプス可塑性である長期抑圧現象に不可欠な役割を果たす。Cbln1には少なくとも他に3種類のファミリー分子があり、小脳以外の脳部位にも発現しており、他の脳部位においてもシナプスの形成と可塑性を制御している可能性が高い。そこで本年度は、CUnファミリーに属する他の3つの分子Cbln2-Cbln4の解析を行った。面白いことに何れのCblnファミリー分子も、海馬錐体細胞や小脳プルキンエ細胞などのPrincipalneuronには発現せず、これらの神経細胞にシナプスを形成するシナプス前部の神経細胞に発現することが分かった(Eur.J.Neurosci.,24,750-60,2006;Eur.J.Neurosci.,25,1049-57,2007)。このことは、「Cblnファミリー分子はシナプス前部から1分泌され、シナプス後部の神経細胞の機能を調節する」という仮説を支持する。一方、Cblnlの大量精製法を確立した。興味深いことに、精製Cblnlは6量体を形成しプルキンエ細胞の樹状突起に特異的に結合することを見出した。またCblnl欠損マウスから作成した小脳培養神経細胞ではシナプス低形成が見られるが、6量体型精製Cblnlを加えることにより、このシナプス低形成は24時間以内に回復することを見出した(論文準備中)。これらの結果は、プルキンエ細胞樹状突起に特異的Cblnl受容体が存在することを強く示唆し、またCblnlが神経活動に基づいたシナプスのホメオスタシス制御にも関与している可能性を示唆する。
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