研究課題
小脳皮質の抑制性および興奮性シナプスの間で起こる新しいシナプス伝達の制御機構に関与する分子機構の解明を目指して研究計画を実施する。これまで代謝型グルタミン酸受容体mGluR1は小脳シナプス回路(平行線維-プルキンエ細胞間シナプス)の可塑性(長期抑圧)を仲介する分子であることは確立した概念であり、このmGluR1の働きがGABA_B受容体の活性化で顕著に強化される事実(Hirono et al.,2001;2002)は、両受容体分子間に起こるクロストークはシナプス可塑性の新奇な制御機構として重要な役割を果たすことを示唆している。このような受容体クロストークの分子的基盤を理解するため、本研究では二つの仮説を検証しようとしている。(1)最初にGABA_B受容体と代謝型グルタミン酸受容体mGluR1によって活性化されるG蛋白サブユニットが相補的に機能を共有することによって、一方の受容体機能(ここではmGluR1受容体の働き)が著しく促進される可能性を検討する。(2)最近BDNFのような神経栄養因子の受容体は、他の受容体が相互作用する足場(集束点)となり、多くのシグナリング経路の統合装置としシナプス可塑性を担う分子として新たな機能を担っていることが提唱された(Chao 2003)。そこで、GABA_BおよびmGluR1受容体が、別の足場蛋白(BDNF・NGF受容体)に連結して相互作用を起こし、mGluR1受容体の働きを制御する可能性を検討する。すなわち「異なる複数の受容体が両者に共通した別の統合的な役割を果たす標的受容体分子に共役して受容体間のtrans-activationを起こし、受容体機能の最終出力を調節する」という新奇の仮説の実証を試みる。このため、BDNF受容体を発現する細胞株(PC12細胞など)へすでに手にしているGABA_B・mGluR1受容体遺伝子を導入発現させクロストーク現象を再構築して、当グループで実績のある細胞内潅流を組合わせた電気生理学(パッチクランプ法)の手法により仮説の妥当性を検証しようとしている。また、ニューロンの初代培養系を用いて、GABA_BおよびmGluR1受容体の間で相互作用を起こす実験系も確立したので、これらの系で細胞内シグナル変換機構の解析を進めているところである。
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