研究概要 |
後シナプスにおける刺激依存的な局所的翻訳は,シナプス形成・可塑性の基盤となっている。我々はこれまでの研究により,RNG105が局所的翻訳の翻訳制御因子であることを示した。また,ノックアウトマウスを作成し,それらの神経ネットワーク形成が脆弱になることも示した。 本年度は,RNG105ノックアウト神経における興奮性・抑制性シナプスの機能について解析をおこなった。まず,神経伝達物質受容体のシナプス局在を調べた。その結果,GABA受容体のシナプス局在が顕著に増大していた。これに対し,AMPA受容体は増減は見られないものの,その局在がネットワーク上のシナプスから細胞体へと大きく変化していた。NMDA受容体には変化がなかった。次に,神経伝達物質アンタゴニストに対する培養神経細胞の感受性を調べた。GABAアンタゴニストには超感受性を示し,神経ネットワーク形成の過剰な阻害,自発的Ca^<2+>スパイクの過剰な抑制が起こった。これに対して,AMPAアンタゴニストに対しては野生型に比べて感受性が鈍く,神経ネットワーク形成,Ca^<2+>スパイクともにほとんど阻害効果が見られなかった。また,NMDAアンタゴニストに対する感受性は野生型と差がなかった。これらの結果から,野生型ではAMPA依存的な神経活動とネットワーク形成が起きているのに対し,RNG105ノックアウトではAMPA依存性が著しく低下し,代わりにGABA依存的な神経活動とネットワーク形成,ただし脆弱なネットワーク形成,が起きていることが分かった。 以上のように,RNG105ノックアウトマウスでは,興奮性/抑制性シナプス形成のバランスが異常になり,それと同時に神経伝達物質の伝達バランスも異常になっていた。このような興奮性/抑制性シナプスバランスの異常は,自閉症や精神遅滞症の原因であることが報告されており,それらにRNG105や局所的翻訳が関与するかどうかは大変興味深い問題である。
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