研究概要 |
樹状突起フィロポディアは発達期の神経細胞に多く見られるダイナミックな構造であり、スパインの前駆体と考えられている。しかしながらその形成・維持機構、スパインへの移行過程さらにはシナプス可塑性における役割についてはほとんどわかっていない。テレンセファリン(TLCN)は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞接着分子であり、哺乳類の終脳神経細胞(特にスパインを持った神経細胞)に特異的に発現している(Neuron,1994)。これまでに私たちは、TLCNの終脳特異的転写調節機構(Cereb.Cortex,2007)、樹状突起選択的局在機構(J.Neurosci.,2005)などを解明してきた。また昨年度までの本特定領域研究において、TLCNが樹状突起フィロポディア形成を司る重要分子であるという新知見を得ていた(J.Neurosci.,2006)。 本年度はTLCNの細胞内領域に結合し、TLCNによる樹状突起フィロポディア形成を担うシグナル伝達分子の探索を、酵母two-hybridスクリーニングにより行った。その結果、ERMファミリー分子群(Ezrin/Radixin/Moesin)がTLCN細胞内領域の膜近傍アミノ酸配列に結合することを発見した。この結合は、表面プラズモン共鳴法(Biacore)による蛋白質直接相互作用の反応速度論的解析、TLCN誘導発現N2a細胞の免疫染色による共局在解析及び免疫沈降法による複合体形成解析によって確認された。また活性化型リン酸化ERM蛋白質が海馬初代培養神経細胞の樹状突起フィロポディアに局在することを見出した。ERMファミリー分子群は膜蛋白質をアクチン細胞骨格系にリンクすることによって、各種培養細胞でmicrovilli、uropod、membrane ruffleなどの特徴的な細胞膜突出構造を形成させることが報告されている。以上の結果から、TLCNとERM蛋白質の相互作用によって発達期の神経細胞における樹状突起フィロポディアの形成が調節されているという可能性が示唆された。
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