体温近傍の温度で活性化するTRPV4の脳での発現を調べたところ、海馬でmRNAの強い発現が観察された。海馬神経細胞の単離培養系を確立して、TRPV4の発現と機能を検討した。TRPV4は海馬神経細胞およびグリア細胞に蛋白質レベルでの発現が確認され、シナプスでの発現が強く示された。パッチクランプ法でも単離海馬神経細胞においてTRPV4活性化電流が観察され、TRPV4が海馬で機能していることが示唆された。しかし、シナプス機能の解析では、野生型マウスとTRPV4欠損マウスでは有意な差は認められなかった。TRPV4は体温下で恒常的に活性化していると考えられ、温度上昇によって単離海馬神経細胞での細胞内Ca^<2+> 濃度の増加が観察された。野生型マウスとTRPV4欠損マウスで海馬神経細胞の静止膜電位を調べたところ、室温では約-62mVで差がみられなかったが、37度では野生型マウスの海馬神経細胞でより大きな脱分極がみられ(約-51mV)、TRPV4欠損細胞より約5mV浅かった。また、野生型マウスの海馬神経細胞はTRPV4欠損細胞と比べて発火しやすいことが明らかとなった。海馬神経細胞に発現するTRPV4は体温で活性化して細胞を脱分極させて、神経の興奮性を制御しているものと考えられた。 TRPV4が体温調節中枢である視床下部神経細胞にも発現していることを発見した。そこで、視床下部に発現するTRPV4が直接温度を感知して体温調節に関わっていると想定して、視床下部でのTRPV4機能を解明する目的で、ラット脳cDNAライブラリーを用いてTRPV4 N末と結合する蛋白質をYeast Two-hybrid法でスクリーニングした。その結果、神経細胞に発現することが知られているイオンチャネル蛋白質のサブユニットが結合することが判明した。TRPV4とその蛋白質が結合することを生化学的に確認した。現在、そのイオンチャネルとTRPV4をHEK293細胞に共発現させて、チャネル機能に変化があるかどうかを検討している。また、マウス腹腔内に温度プローブを埋め込んで自由行動下に体温計測を行っており、野生型マウスとTRPV4欠損マウスで変化がないかも検討している。さらに、TRPV4と結合するイオンチャネルのリガンドを脳内投与して体温に変化が起こるかどうかの検討も進めている。
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