研究概要 |
アミロイド産生にかかわるγセクレターゼの活性阻害によるアルツハイマー病治療を考えた際、その構造活性相関および切断機構の分子レベルでの理解は必須である。しかしγセクレターゼはPresenilin(PS)、Nicastrin、Aph-1、Pen-2を主たる構成因子とする、複数の多回膜貫通型蛋白からなる高分子量膜蛋白複合体であり、通常の構造生物学的アプローチが困難である。PSには、TM6およびTM7に存在する二つのアスパラギン酸が活性中心として考えられているほか、基質結合部位が存在することが明らかとなっており、PSはγセクレターゼの活性中心サブユニットとして考えられている。PSの構造活性相関の理解は、γセクレターゼによる切断機構の理解および活性調節を決定しうる可能性があるとして注目を集めている。そこでSubstituted cysteine accessibility method(SCAM)をPSに適用し、TM6およびTM7に存在する二つのアスパラギン酸からなる活性中心が親水性領域に面していることを明らかとした。すなわち、膜内の蛋白分解はγセクレターゼ複合体内に存在する、脂質二重膜内のcatalytic poreにおいて起こっているとするモデルを提唱した(Sato, et. al. J Neurosci. 2006)。引き続いてSCAMを行い、TM7以降のC末端領域すべての残基について検討した。その結果、TM8が完全に疎水性領域に面しているのに対して、TM9もcatalytic poreに面し、PAL領域が活性中心の近傍に存在すること、さらに基質結合領域として機能している可能性が示された。これらの研究により、γセクレターゼ複合体は基質として膜貫通領域をTM1/2およびTM9近傍で認識した後、脂質二重膜である疎水性環境から親水性環境であるcatalytic poreへと運び、切断を行うというモデルが考えられ、その活性を制御するにあたり様々な作用点の存在が予測された。
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