研究概要 |
ポリグルタミン(PolyQ)病はハンチントン病、種々の脊髄小脳変性症などを含む一群の難治性神経変性疾患の総称で、原因蛋白質内の異常伸長PolyQ鎖が異常コンフォメーション変移を獲得し、難溶性凝集体の形成を含む異常蛋白質間相互作用などにより神経変性を引き起こすと考えられている。我々はこれまでに異常伸長PolyQ鎖結合ペプチドQBP1がin vitroで異常伸長PolyQ蛋白質の異常コンフォメーション変移・アミロイド線維状凝集体形成を阻害し、ショウジョウバエモデルでの封入体形成・神経変性を抑制することを明らかにしてきた。 本研究では1.QBP1を発現するアデノ随伴ウイルスベクター5型(AAV5-QBP1)をマウス脳内に感染させて、ハンチントン病モデルマウスR6/2に対する遺伝子治療を行った。AAV5-QBP1を生後7日齢のR6/2マウスの片側線条体に注射し、3週間後(4週齢)に免疫染色を行った結果、注射側線条体でのPolyQ陽性封入体の形成率はコントロールのAAV5-GFP注射群の31.5%に比べてAAV5-QBP1注射群では9.0%と有意な減少を認めた。現在、運動障害などの神経症状に対する治療効果を検討している。 また2.PolyQ病の発症分子機構に基づいた薬物治療を目指して、これまでにPolyQ凝集阻害低分子化合物のハイスループットスクリーニング(約45,000化合物)から新規PolyQ凝集阻害化合物99種類を同定している。これらの1次ヒット化合物について、2次スクリーニングとしてPolyQ病モデルショウジョウバエに対する治療効果を検討し、封入体形成・複眼変性を有意に抑制するPolyQ凝集阻害化合物QAI1、QAI2を同定した。現在、QAI1、QAI2についてさらに詳細な解析を進めると共に、他の1次ヒット化合物についての検討も進めている。 以上の結果から、異常伸長PolyQ鎖結合ペプチドQBP1を用いたPolyQ病の遺伝子治療の可能性が示された。また、薬物治療確立を目指して新規のPolyQ凝集阻害化合物を同定しており、これらはPolyQ病治療薬のリード化合物として期待される。
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