ディスバインジン(Dysbindin : DTNBP1:dystrobrevin-binding protein 1)は、世界中の多数の民族において統合失調症との関連が確認されているもっとも有力な統合失調症脆弱性遺伝子の一つである。統合失調症の死後脳研究において、ディスバインジン発現レベルの低下が認められることが報告されている。我々は抗精神病薬を長期投与したマウス脳においてディスバインジンmRNA発現の変化が認められないことを報告した。よって統合失調症脳におけるディスバインジンの発現レベルの低下は抗精神病薬投与による影響を受けているのではなく、統合失調症の病態に関連していると考えられる。 この結果から、ディスバインジンのノックアウトマウスが統合失調症のモデルマウスとして有用である可能性が示唆される。よってこのマウスを用いて、行動解析を行った。オープンフィールド試験においては、ノックアウトマウスは前半の15分間において行動量が低下しているが、後半の15分においては行動量の変化は認められなかったため、新奇環境における探索意欲が減退していると考えられた。またフィールドの真ん中での滞在時間がノックアウトマウスで減少しており、不安が増強している傾向があると考えられた。次に、高架式十字迷路においては、オープンアームにいく回数が前半の10分では変わらないが、後半の10分で少なくなっており、これも不安を反映していると考えられた。社会的行動測定テストにおいてノックアウトマウスではコンタクト回数が減少していた。これらの結果は、ディスバインジンのノックアウトマウスでは、不安の増強に加え、意欲や社会行動の障害が認められることを示唆する。統合失調症のモデルマウスにおいては、このようなフェノタイプを示すものは報告されていない。よってこのマウスは新たな統合失調症のモデル動物として興味深いと考えられる。
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