故鈴木公雄氏が作成した全国出土備蓄銭(一括出土銭)データを、ご遺族から電子情報として譲り受け、遺跡ごとにデータのチェックをおこなっている。考古学のみならず、日本史、民俗学、古銭学など隣接学問分野の資料として活用しやすい形態を検討し、あらゆる学問にとって使い勝手の良いデータベース化を施し、ウェップ上での公開を目指して作業中である。 全国各地の発掘調査で個別に出土している銭貨(個別出土銭)についは、基本的には報告書に記載されている範囲内の情報を、出土銭貨研究会の世話人を通して集成していくこととし、まず、九州・山口の世話人と打ち合わせをおこない、エクセルとアクセスのソフトを使用した入力フォームを確定させた。銭貨の場合、出土している数量が多いことから、1枚1枚のデータ化は難しく、アクセスを使用すればこれは可能となるが、エクセルを使用した遺跡ごとのデータ集成でも良いこととした。宮崎県に関する作業はすでに完了した。中世都市「博多」については、報告書からのデータ収集についてはすでに終わり、現在は福岡市埋蔵文化財センターに収蔵されている現物のチェックをおこなっている。 11月に大阪市立大学で出土銭貨研究会大会を開催した。テーマは「歴史空間における銭貨」であり、各地の中世都市から出土している銭貨の集成をおこない、銭貨の出土状況と都市の盛衰との関連を把握しようと試みた。 また、データベースとの直接的な関連は薄いが、この調査過程で中世貨幣研究上、重要な二つの発見があった。ひとつは、壱岐市観城跡から国内ではほとんど流通していないと考えられている大型銭(崇寧重寳当十銭)の未製品が出土したことで、中世日本における大型銭流通の是非について考え直さねばならない可能性が生じてきた。二つ目は、福岡県北九州市黒埼で17世紀初頭と考えられる模鋳銭の工房跡と推定できる遺跡にあたった。
|