立方対称を有するf電子系化合物は、単純な結晶構造にも関わらず、非常に複雑な低温物性を示すものが少なくない。近年、その原因の一つが、f電子の持つ多重極自由度にあることが分かってきた。本研究計画は、現実の物質とくにスクッテルダイト化合物とその関連物質を舞台として、特にPrなどの複数f電子配位イオンを有する系における特異な多重極相互作用と準粒子状態を明らかにすることを目的としている。 本年度は、PrOs_4Sb_12の磁場誘起相転移に関する圧力効果の理論を発展させた。実験的に明らかになっている1重項-3重項結晶場準位における多重極相互作用が、結晶場分裂の小さいとき、適切な擬スピン表示を用いることで、4状態Potts模型にマップできることを示した。この手法により、四重極相転移の性質の多くの側面を理解でき、また1軸圧による転移温度の上昇を予想した。また磁場方向が(110)の場合の誘起反強磁性の計算を行ない、中性子散乱実験と比較を行った。 また、八重極秩序が予想されているCe1-xLaxB6とNpO2に対して、弾性中性子散乱における磁気形状因子の計算を行った。短波長領域で散乱強度が著しく増大することを示し、形状因子の異方性に関する対称性に基づく考察を行った。
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