研究概要 |
本研究では,低次元有機導体に発現する電子相転移のごく近傍において、1次性の強い場合に発現が期待される本質的な不均一電子状態を,複合した極限環境の下でコントロールすることにより、その応答を制御することを目的としている.本年度は電場勾配(電流注入)を印加した非平衡環境下で発現する方向性秩序を有するマクロ相分離の形成とその走査型局所赤外反射スペクトル測定による実空間分布測定を中心に行った. モット絶縁体であるK-TCNQは,395K以下でスピンパイエルス的構造転移を起こしTCNQ分子の2量体を形成する.この状態では顕著な非線形伝導を示すが,Kumaiらによって電場印加方向に垂直な方向にストライプパターン(垂直ストライプ)が形成されることが示された.本研究では、走査型局所赤外反射スペクトル測定によりこのストライプパターンの性質、発現機構を明らかにするために,まずストライプパターンの形成を試みた.その結果、電場印加方向に対するストライプの方向が試料セッティングにより変わることを見出した.垂直、水平ストライプの各相を同定するために、SPring-8放射光赤外光を利用した走査型局所赤外反射スペクトル測定を行った.測定の空間分解能(15μm)は、各ストライプの幅よりも若干広いため各ストライプを分離した測定には至らなかった.しかしストライプが出現している領域では、平行、垂直ストライプのどちらの場合でも明瞭にダイマー構造が弱くなっていることが観測され、ストライプが均一相とダイマー相の相分離であることがわかった.垂直ストライプの形成は,電流印加により試料が伸張する事による局所歪の緩和が起源であり,平行ストライプは,電流印加による分子内電荷分布の平均化によるダイマー構造の平均化が局所的に発現し、空間的に電流方向に増殖しながら相分離構造を形成すると考えられる.
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