研究課題/領域番号 |
18028007
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
谷口 弘三 埼玉大学, 大学院理工学研究科, 助教授 (50323374)
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研究分担者 |
佐藤 一彦 埼玉大学, 大学院理工学研究科, 教授 (60225927)
小坂 昌史 埼玉大学, 大学院理工学研究科, 助教授 (20302507)
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キーワード | 有機伝導体 / 超伝導 / 超高圧 / ドーピング / 圧力-温度相図 / ホール効果 |
研究概要 |
本研究は、有機超伝導、κ-(BEDT-TTF)_4Hg_<2.89>Br_8,κ-(BEDT-TTF)_4Hg_<2.78>Cl_8の特異な高圧下物性の理解をさらに深めるため、我々が持つさまざまな圧力下物性測定技術を駆使して、研究を推し進めるものである。これら2物質は、κ-型の結晶構造、すなわち強く二量体化した分子構造を持ち、バンド計算では、U/Wが1よりもはるかに大きく、この意味で、強い絶縁体的振る舞いが期待される。しかし、常圧では両物質とも、金属的な物性を示し、しかもBr塩では、超伝導も示す。また、Cl塩でも比較的低い圧力下で超伝導が出現すると報告されている。このようなバンド計算と実際の物性との間での矛盾は、これらの塩の超伝導が水銀イオンの不定非組成に由来したドーピング効果によるもであると考えられる。このため、これらの塩は、有機物質では唯一となる、nearly half-filled bandを持つ物質として、強相関系物質の中で重要な位置を占めていると考えられる。 1)圧力下交流磁化率測定:まず、我々は、相互誘導法による圧力下交流磁化率測定により、これらの物質の超伝導を調べた。2GPa以下の圧力において詳細に超伝導のマイスナー効果を調べることに成功した。そこでは、超伝導体積分率が、誤差の範囲内でほぼ完全であることが確認された。この系は約20年前に発見されたものであるが、このように100パーセントの超伝導が確認されたことは、小生の知る限り初めてのことである。 2)μSRによる磁性研究(佐藤一彦):我々は、また、κ-(BEDT-TTF)_4Hg_<2.89>Br_8の物性を磁性の観点で調査するため、μSR測定を、カナダのTRIUMFにて行った。結果として、この超伝導の常伝導状態では、磁気ゆらぎが低温にむかったキュリーワイス的に増大しつずけていることが判明した。このような異常な金属状態は、言うまでも無く、他の有機金属では見られない。 3)圧力下ホール効果測定:さらに、我々は、今まで他の系で行ってきた、圧力下ホール効果測定をこの系に適用した。結果として、この物質では、ホール係数が低温に向かって増大しつづけることがわかった。この温度依存性をキューリーワイス則でフィッティングしたところみごとにフィットすることができた。輸送現象が磁性の理論則で説明できるという事実は極めて興味深い。ただし、このような現象の理論予測は名古屋大学の紺谷によってすでになされており、他の強相関物質でも同様の現象が見られることも事実である。しかし、今回のような、かなり広い温度範囲にわたって見事にキューリーワイス則で説明できるという現象は、観測されておらず、この意味で、この系はホール効果に影響を及ぼす他の効果がなく、純粋に磁気揺らぎを反映している点は特筆すべきである。また、キューリーワイスフィットから導いたワイス温度は、上記の常圧のμSR測定で得たワイス温度と首尾よくつながり、FSR測定で見ているような動的帯磁率の温度変化がホール係数に影響を与えていることが明らかになった。
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