「分子性導体」は、内在する多様な相互作用や電子構造の低次元性による特異性の存在などから、高速かつ巨大な光誘起相転移発現の候補物質として注目されつつある。本課題では、特に電荷整列相などの特異な電子相を示す1/4フィリング系等に着目し、光誘起絶縁体金属相転移を発現する系を探索するとともに、その相転移メカニズムを解明する事を目標としている。 本年度は、ポンププローブ分光法を用いた時間分解光学測定を行い、2量体の電子構造の特異性に起因した電荷分離相を持つEt_2Me_2Sb[Pd(dmit)_2]_2において、高速かつ巨大な光励起応答を発見し、その応答が光誘起相転移現象であるという可能性について検証を行った。この系で起こる光励起応答では、測定系の時間分解能よりも短い時間スケールにおいて反射率の急激な立ち上がりが観測された。また、その緩和過程も5ps程度の時定数を持つ非常に高速なものであった。このような短い時間スケールにおいて起こる巨大な光励起応答は、励起光エネルギーの吸収にともなう温度上昇の起こる前の時間スケールでの現象であり、熱的な効果では無く、純粋に光学的な応答であると言える。更に、光励起直後の反射率スペクトルを測定したところ、その形は、高温のモット絶縁体相と同様のものとなっており、この現象は、光励起による電荷分離絶縁体相の融解を示唆するものだと言える。以上の実験事実から、この系において、光誘起相転移現象が起きている可能性が高いと判明した。更に高温相での光励起応答や、コヒーレント振動の観測など、興味深い現象も次々と発見され、これらについて、詳細な研究が現在進行中である。
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