研究課題
本研究は、圧力下を含む広い周波数範囲におけるESRを主な手段とし、また、固体高分解能NMR、SQUID磁束計、電気伝導度測定等も適宜用いて種々の分子性結晶の電子状態を探り、新たな物性の発見を目指した。分離積層型の(BEDT-TTF)(TCNQ)、(BEDT-TTF)_2ICl_2、(DMe-DCNQI_)2M、(M=Li、Ag)、K-TCNQ交互積層型の(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)、(BEDO-TTF)(Cl_2TCNQ)やDNA等を取り上げた。β'-、β"-(BEDT-TTF)(TCNQ)は、どちらもBEDT-TTF2次元シートと、TCNQ1次元鎖が交互に配列する分離積層型であるが、前者は単位胞に2分子ずつ含むと共に、2種の分子のスタック軸方向がほぼ垂直をなすのに対し、後者では分子1枚ずつで単位胞を構成し、スタック軸はより平行に近く、結晶構造が大きく異なる。BEDT-TTF分子1枚からTCNQ分子1枚に電子が0.5個移動しているので、前者はhalf-filled、後者はquarter-filledの系である。Q(30GHz)及びW(90GHz)バンドESRの線幅の周波数依存性とg値の異方性の解析により、電子がBEDT-TTFシートとTCNQ鎖の間を飛び移るホッピング率を見積もることができる。β"は温度上昇とともに増加する熱励起型であるが、β'では減少する逆熱励起型となり、対照的な結果が得られた。β'ではBEDT-TTF、TCNQどちらもdimer性が強く、単位胞にdimerが1つあるhalf-filledのMott絶縁体と見なせる。一方、β"では単位胞に各分子が1枚ずつ含まれ、低温でBEDT-TTFは金属相、TCNQ鎖はquarter-filledのdimer-Mott絶縁相であると考えられる。このことを考慮したFermi準位近傍のバンド構造の違いにより、上記の違いが理解できることを示した。β'では価電子帯の電子が伝導帯に熱励起されることは難しく、観測されたホッピング率は価電子帯間の交換相互作用に支配されていると考えられる。温度上昇に伴い各分子の熱振動が激しくなり、交換積分が小さくなってスピン交換頻度が小さくなると解釈できる。一方、β"ではTCNQ相の4k_F-CDW gap内に励起されたsolitonとBEDT-TTF相のFermi準位間の電子のホッピングが可能となる。この時頻度は熱励起されたsoliton数に比例することになり、熱励起型となることが期待できる。さらに、β"のESRスペクトルに見られた30K以下での非対称な線幅を、BEDT-TTFシート内の伝導電子を介したTCNQ鎖内の局在スピン間のRKKY相互作用を考慮して解釈した。
すべて 2007 2006
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