研究概要 |
我々はこれまで、屈曲した分子骨格を有するドナー分子を用いた磁性伝導体の開発を行っている。今回、安定な金属伝導性に加え、さらに強いπ-d相互作用を実現させることを目的として、新規な1,3-ジセレノール誘導体(EDT-DSDTFVSDS,1)を合成し、そのMBr_4^-(M=Fe,Ga)塩,(1)_2MBr_4の作製と結晶構造・バンド構造および電気伝導・磁気性質について検討した。結晶中でドナー分子は均一に積層し、β型の配列をとっている。ドナー層内には短いカルコゲン接触がスタック内、スタック間両方に存在する。また、S…Br間およびSe…Br間においてそれぞれ3.75と3.91Åの短い接触があり、強いπ-d相互作用の存在が示唆される。一方、Br…Br間の距離は4.47および4.99Åであり、d-d相互作用は弱いと考えられる。 (1)_2FeBr_4の多結晶を用いて磁化測定を行ったところ磁化率の温度依存性はCurie-Weiss則に従い、Weiss温度-10.5Kからdスピンは強く反強磁性的相互作用することが示された。また、単結晶を用いた場合、磁場をc軸方向に印加したところ、5K以下において磁化率の大きな減少が見られ、反強磁性転移の存在が示唆された。比熱測定によりその転移温度は3.3Kであった。 (1)_2MBr_4は10^2Scm^<-1>程度の高い室温電気伝導度を示した。30K以下で電気抵抗の上昇が見られるが、全体的には金属的な伝導挙動が得られた。結晶面内の磁気抵抗測定の結果、(1)_2FeBr_4では磁場をa軸方向に印加したところ、0.6K,5Tにおいて-30%の大きな負の磁気抵抗を示した。また、c軸方向への磁場印加では、1.7T付近において大きなディップが観測された。このディップはFeBr_4^-イオンのdスピンのフロップによるものであり、強いπ-d相互作用の明確な証拠であると考えられる。
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