本研究では、新しい相転移物性の発現および相制御を目指したビフェロセン系電荷移動錯体の開発を主眼とする。 第一に、前年度の継続として、一価固体・二価固体の相境界図の作成を試みた。一連のビフェロセン系錯体の酸化還元電位と原子価状態の相関について、前年おおよその傾向を把握したが、今年度は新しいビフェロセン誘導体(MeO体、MeSe体)を用いた錯体を順次合成することにより、特に相境界近傍の物質の探索を重点的に行った。 第二に、分子内に配座自由度を導入し、相転移制御を目指す試みを行った。こうした目的のため、シクロアルケニル基またはシクロアルキル基を導入した一連の新規ビフェロセン誘導体を合成した。いくつかの物質については単体の結晶構造解析を行なった。これらは電荷移動錯体を与えにくい傾向があったが、[1'-cyclohexenylbiferrocene][Ni(mnt)_2]については単結晶が得られた。この錯体はビフェロセンのモノカチオンを含んでおり、アニオンとの静電相互作用によって原子価の局在がおこっていた。シクロヘキセニル基は1'-cyclohexenylbiferroceneの単体の結晶中ではディスオーダーしていたが、[Ni(mnt)_2]塩ではディスオーダーが抑えられていた。これは、クーロン相互作用のために塩では分子がより密にパッキングしていることに起因する。
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