本研究課題では、第一原理計算による精度の高い構造最適化手法を用い、様々な環境下での分子性導体の構造変化に対する全エネルギーの変化、電子状態の変化を詳細に調べる。特に、1)最新の実験結果と定量的に比較できる第一原理計算を行うことによって、実験グループをサポートする、2)(EDO-TTF)_2PF_6で見られる大きな分子変形を伴う電荷秩序状態に対する第一原理計算、という二つの課題に取り組んだ。 本年度は、1)についてはκ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2のバンド分散、状態密度を求め、光電子分光の実験結果と比較を行った。また、特異な電子状態を示すα-(BEDT-TTF)_2I_3の静水圧力下の構造(内部座標)と電子状態を第一原理計算で求めた。2)については、昨年度に計算を行った(EDO-TTF)_2PF_6の低温絶縁相に対して、GGAに基づく理論構造最適化によって得られた二つの分子構造の解析を行った。分子内の結合距離を実験による構造、電荷状態が中性と+1価の孤立分子に対する理論計算による構造とを比較する事により、GGAに基づく第一原理計算で得られた電子状態、構造は二つの非等価な分子の違いを過小評価することが示唆された。また、この系に対する分子振動の計算を開始した。
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