研究概要 |
本年度は、1/4充填の伝導バンドを持つ電荷移動型の分子性導体に対する数値的理論研究、および新規分子性導体に対するモデル化およびその解析を行った。 1.前年度に引き続き擬1次元分子性導体の有限温度物性と相図の数値的研究を行った。その結果、TMTTF_2XやDCNQI_2Xなどの擬1次元系における電子相関および電子格子相互作用が絡んだ相転移現象を、有限温度における数値計算によって再現することにより重要なパラメータを同定し、臨界温度領域での熱力学的物理量の振舞を計算することによって相転移の性質を明らかにした。また、低温領域で有効となる数値的手法であるモンテカルロシミュレーションを用いた計算も行うことにより、実際の物質での観測される物理量の温度依存性や実験相図との1対1の対応が付けられる段階まで到達した。また、これらの数値的手法と相補的に用いている、ボゾン化法および繰り込み郡の手法による解析的アプローチによって電荷秩序転移やダイマーモット絶縁体の有限温度物性の物理的解釈を与えることに成功した。 2.単一成分分子性金属M(tmdt)_2(M=Ni,Au)の電子状態を理解するため、第一原理計算および分子軌道計算を元に、有効モデルを構築しその解析を行った。このモデルは分子内の"仮想"分子軌道、すなわち両tmdt配位子中のTTF骨格上の軌道と、金属原子および周りのS原子の反結合軌道、を基底とした3バンドハバードモデルである。これら2種の軌道は、Ni系では金属化自体に、Au系では磁性発現において、重要な寄与を果たすことがわかり、この新物質系が「多バンドπ-d系」であることを示した。
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