研究代表者のグループでは、薄片状の有機単結晶を成長して静電的にトランジスタ基板に貼り合わせることによって、有機単結晶トランジスタを作製する手法を開発し、キャリア移動度などその性能における優位性を示してきた。これまでの実験的研究から、単結晶トランジスタにおいてもゲート絶縁膜と接触する界面の状態によって、キャリア移動度が大きく影響されることがわかってきていた。そこで今年度は、1)ドライな環境下で作製したシラン系自己組織化単分子膜をコートしたゲート絶縁膜を用いた有機単結晶トランジスタ、及び2)ジフェニルアントラセン有機単結晶をゲート絶縁膜とした、単結晶/単結晶接合よりなる有機単結晶トランジスタを作製し、界面準位密度を最小限にした単結晶トランジスタの伝導特性を測定した。 1)及び2)の高品質界面を利用した場合、40cm^2/Vsものキャリア移動度が達成された。この値は、これまでの有機トランジスタ中で最も大きい。同様に作製した単結晶トランジスタにおけるキャリア伝導の磁場効果(ホール効果)を精密測定した結果、キャリアが結晶の表面ではなく、内部に分布していることにより、高移動度を実現するメカニズムを明らかにした。即ち、界面準位密度を最小限にしたことによって、電界が単結晶の表面トラップ電荷によって終端されることなく結晶内部に到達し、アモルファス絶縁膜の不規則ポテンシャルによる散乱が少ない内部キャリアを利用できたために、高キャリア移動度が得られたと考えられる。本結果は、次年度の低温キャリア伝導度研究を行うための基盤となる。
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