本研究は、有機電界効果トランジスタの最大限の性能を実現する有機単結晶トランジスタを構成し、有機半導体に電界効果注入したキャリアの伝導機構を明らかにするとともに、新物性を発現させるために必須な低温キャリア伝導度測定の手法を開発することを目的とした。18年度には、現在最高移動度の有機単結晶トランジスタを実現したのに続いて、19年度は、キャリアの伝導するチャンネル部分におけるキャリアとラップ準位を更に低減し、これまで150K程度で伝導度が失われていたのに対して、さらに低温でキャリア伝導を可能にすることを計画した。具体的にはキャリア伝導層である有機単半導体とキャリア注入のために加える電界を保持するゲート絶縁層にどちらにも有機単結晶を用いたうえで、有機半導体をゲート絶縁層で上下から挟み込む、ダブルゲート構造の作製を試みた。その結果、ダブルゲートトランジスタの2つゲート電界を調節、結晶表面よりキャリアの散乱が少ない結晶中央部にキャリアを分布させた場合、これまで異常の高移動度が実現することを明らかにした。また、低温伝導度測定を可能にするよう、有機単結晶と同程度の熱収縮率を有するプラスティック基板を用いて、低温において有機単結晶に加わるストレスを最小限にし、さらに、有機単結晶トランジスタ上にアクセプタ分子膜を構成して低温で有効になる低エネルギートラップ準位密度を補完するキャリアを供給する工夫を加えた。その結果、最終的に10Kにおいても導電性が得られた。本研究では、有機単結晶を用いることによって、有機半導体本来のキャリア伝導性能が一般的な有機薄膜多結晶トランジスタよりはるかに高く、その伝導は低温でも本質的には失われないことが明らかになった。有機トランジスタの2次元電子系において、こうしたバンド的な伝導が得られたことは、今後新奇な低次元電子系物質界面に構築する研究の基盤となる。
|