研究概要 |
本年度は、微量でも金属ガラスの安定性に影響を与えることが知られており、大きなはじき出し効率をもつとともに、触媒などの表面効果に興味がもたれる貴金属(Ag, Pt, Au)イオンの注入効果について、構造および電子状態の変化に注目して実験を行った。ZrNiAlCu結晶合金に対する貴金属イオン注入では、通常の金属に比べ一桁程度低い10^<20>/m^2程度の注入量で表面非晶質化が起こることがわかった。注入元素はほぼイオンの飛程の終端(最大200nm)で捕捉され、室温ではほとんど拡散しない。注入試料に高真空中760K・30sの熱処理をほどこすと再び回折ピークがあらわれるが、注入量が増えるとともに結晶化が起こりにくくなる。一方、非晶質合金への注入ではX線回折パターンにはほとんど変化が見られないが、透過電子顕微鏡観察では10^<19>/m^2程度の注入量で10nm程度の微細な析出物が現れる。これらの析出物の大きさならびに数はイオン照射量とともに増大する。高真空中で熱処理(760K,30s)をほどこすと、fcc-Zr2Ni、fccおよびbct-Zr_2Cu以外の特徴的な結晶ピークが現れる。このピーク位置は注入元素によらない。また、ピーク強度は注入によるはじき出し量が増えるに従い増加する傾向にある。XPS分析では、注入Au原子はバルクAuに比べ価電子帯のAu5d分裂幅が小さくなり、かつAu4f電子の結合エネルギー増加がみられた(図2)。ZrおよびCuバルク金属中に注入されたAuと比較した結果、注入AuはZrと強く結びついていることが示唆される。Agイオン注入でも価電子帯Ag4dの分裂幅の縮小がみられるが、ZrやCuとの結合は弱く、Agクラスターを形成している可能性が考えられる。
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