Pd-Cu-Ni-P (PCNP)4元系バルク金属ガラス(BMG)は、金属ガラス中で最も優れたガラス形性能(GFA)や高い熱安定性を示す事が知られている。このことは、この組成のガラスが過冷却状態や固体状態において特異的な安定なクラスター構造を持つ事によると考えられている。本研究ではPCNPに対し、ガラス転移温度付近での原子の拡散挙動と微視構造を理解する目的でNMR解析を行った。検出には高温測定可能な自作NMRプローブを改造し、^<31>P及び^<63>Cuについてガラスから過冷却液体を経由して液体状態までの高温下その場NMR測定を行った。また、試料の表皮効果による信号強度の減少を防ぐため、試料形状と作成方法を最適化した。試料の粒径を制御し、絶縁体と混合することで、^<31>Pと比較して感度の低い^<63>Cuにおいても、NMR測定が可能となりた。NMR測定の結果、Pd_<40>Cu_xNi_<40-x>P_<20>組成のBMGについて、室温で測定した^<31>P NMRスペクトルは、Cuの量が増えるにつれピークが高磁場側にシフトした。このことは金属のナイトシフトによって説明できる。一方、^<63>Cu NMRスペクトルには、^<31>Pのようなシフトの大きな組成依存性は見られなかった。さらに^<31>Pと比較して^<63>Cuのナイトシフトはほぼ1/3であった。またナイトシフトの温度変化は小さく、スピンー格子緩和時間(T1)は温度との間にT_1T=一定のKorringaの関係式が成立した。
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