本研究の目的は、バルク結晶金属にフェムト秒レーザーを照射し、表層をガラス化することである。フェムト秒レーザー照射によるガラス化の報告はこれまでにはない。フェムト秒レーザーを金属表面に照射すると強度100-300GPa程度の衝撃波が駆動され固体内を伝播する。また、パルス幅が極めて短い為溶融層が極めて薄く、従って冷却速度は10^<13>K/s程度と極めて大きい。これらはパルス幅が長い(ナノ秒以上)レーザーでは起こらない現象である。本研究では、超高圧および超急冷を同時に達成するフェムト秒レーザーを用いて、バルク結晶金属表層にこれまでにない金属ガラス合成を目指す。 本年度は、そもそもフェムト秒レーザー照射によってアモルファス化が可能かどうかを調べる為に、アモルファス形成能の高いY-CuTi合金のフェムト秒レーザー誘起アモルファス化を調べた。 波長800nm、パルス幅100fs、パルスエネルギー0.9mJのフェムト秒レーザーパルスを焦点距離70mmの平凸レンズで集光し、鏡面研磨したγ-CuTi合金の表面に空気中で照射した。スポットサイズは約50μmであり、集光位置におけるレーザー強度は約10^<14>W/cm^2である。これは、100-300GPaの衝撃波を駆動するのに十分なレーザー強度である。レーザー照射部分の縦断面を集束イオンビームを用いて薄片化し、TEMグリッドに取り付けた。その後、200-1000keVのArイオンを用いて薄片試料の最表面層のダメージを除去し、400kV高分解能電子顕微鏡を用いて、高分解能TEM観察を行った。 その結果、表層約400nmがアモルファス化していることが確認された。アモルファス相が誘起された機構としては以下の2つが考えられる;1)フェムト秒レーザー駆動衝撃圧縮による力学的効果、2)レーザー誘起溶融層凝固時の急冷効果。今後、このどちらの因子が寄与しているかを確かめる為に、衝撃波の駆動されないナノ秒レーザーをγ-CuTiに照射し、形成されるアモルファス相を調べる。また、他の合金のアモルファス化も検討する。
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