研究概要 |
本研究では、力学的な視点から金属ガラスのガラス転移現象の理解に資する知見を得ることを目的とし、実験、理論解析および分子動力学法によるシミュレーションを行った。昨年度は、電磁超音波共鳴法を用いて、低温域(約5K)から結晶化温度を超える高温域において、Cu基バルク金属ガラス(Cu_<60>Zr_<30>Ti<10>,Cu_<60>Hf_<25>Ti_<15>)に対する弾性定数の精密計測を行った。その結果、低温計測から、いずれの金属ガラスにおいてもG/B(剛性率/体積弾性率)比は結晶と比較して顕著に小さく、またせん断モードフォノンの振動数も相対的に低いという傾向を得た。また、高温計測から、加熱に伴う構造緩和によって弾性率はいずれもわずかに上昇するものの、その後のガラス転移温度近傍において急速な減少が認められた。この際、剛性率の減少は特に顕著であり、この傾向は、ガラス転移現象が本質的に固体→液体(過冷却液体)への相転移であるという一般的な理解と一致することを明らかとした。熱力学、およびマイクロメカニクス(微視力学)を用いた理論解析の結果、金属ガラス内の弾性的結合力のゆらぎを考慮することで、上記の低温および高温域における異常な弾性特性を定量的に説明できることを明らかとした。したがって、金属ガラスに生じるガラス転移現象は、弾性的結合力の弱い領域が優先的かつ局所的な融解現象として理解される。本年度は、Cu単成分系金属ガラスに対する分子動力学シミュレーションを行った。得られた結果についてボロノイ多面体解析を行った結果、ガラス内部には弾性的な結合力のゆらぎが存在し、また弱結合領域は互いに隣接する傾向にあることを見出した。この結果は、上記の実験・理論解析の結果と定性的に一致している。現在は、得られた結果をとりまとめ、学術雑誌への投稿および投稿準備中である。
|