研究課題
トレハロースは、水の代替物質して細胞内に産成される適合溶質であり、細胞膜や蛋白質を乾燥や凍結破壊から防ぐ役割をする。本研究では、実験及び理論計算を通して、この糖の作用機構に関し以下の成果を得た。1.レハロースを蓄積することにより乾燥耐性を獲得した代表的生物としてネムリユスリカをとりあげ、水置換仮説とガラス化仮説のどちらのメカニズムが優位に働いているかを検証した。具体的には、乾燥した幼虫試料を直接FTIR法あるいはDSC法により測定した結果、ネムリユスリカの生命維持にはガラス化メカニズムが優位に働いていると結論した。2.トレハロースが乾燥DNAの構造安定化にどのような効果をもつかを、FTIR実験とDSC測定から調べた。その結果、1ヌクレオチド対当り2分子のトレハロースを混合し乾燥させるとB型二重螺旋構造が保持されること、トレハロースはDNAのリン酸基に直接結合しているらしいこと、さらに乾燥したDNAとの混合物中でトレハロースはガラス化していることが判明した。以上より、DNAの熱安定性はトレハロースのガラス化と密接に関係していると結論した。3.水置換仮説やガラス化仮説を原子レベルで検証するため、分子動力学シミュレーションを実行した。まず、リン脂質二重膜とトレハロースから成る系に対しシミュレーションを実行した結果、トレハロースはリン脂質極性基に直接水素結合すること、及び脂肪鎖の秩序パラメータはトレハロース濃度依存的に増大することが判明した。これにより、水置換仮説が実証できた。次に、ガラス状態のシミュレーションにより、ガラス化しやすく劣化し難いというトレハロース特有の性質が何に起因するのかを調べた。分子間水素結合数、平均二乗変位、自由体積及び糖のコンホメーション揺らぎなどの解析結果から、トレハロースは単一のコンホメーションをもつため、分子のパッキング密度が高くなりガラス転移点の上昇がもたらされると結論した。
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Cryobiology and Cryotechnology (印刷中)
J. Chem Thermodyn. 38
ページ: 1612-1619
低温生物工学会誌 52
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