研究課題
1b4vは、補酵素FADを内包するタンパク質であり、生体内で電子伝達に関わるタンパク質として重要な働きをしている。FADはタンパク質の中心付近に位置する反応の活性サイトであり、アポタンパクとは非共有結合によって繋がっている。1B4V中のFADは、最終的には2電子還元されることによりコレステロールを酸化するが、一電子還元体も中間体として存在することが知られている。本年度は、我々がこれまでに水溶液中の化学反応の研究のために開発してきたプログラムを、タンパク質中の反応へ拡張するための定式化とそのコード開発、計算速度の向上、などを目指して研究を行った。成果を以下にまとめる。1.準備段階として、FADの活性部位であるイソアロキサジン環が水溶液中に存在するときの還元の自由エネルギー変化を計算した。補酵素がタンパク質中に存在する系への拡張を考えて、補酵素に付加する余剰電子1個を溶質とみなす特別な方法を採用した。プログラム開発のための必要な定式化を行い、余剰電子についてエネルギー分布関数を作成するためのルーチンを新たに開発した。水溶液中のイソアロキサジン環の一電子還元の自由エネルギーΔμは、-69.8kcal/molと計算された。気相中でのエネルギー差は、-45.7kcal/molであるので、水和により自由エネルギーがおよそ24kcal/mol減少することが分かった。現在、従来の方法で酸化型、還元型のイソアロキサジン環の溶媒和自由エネルギーを計算している。Δμを比較し、この方法の妥当性を検証する。2.上記プログラムを、タンパク質中の反応へ拡張するためにプログラムの並列化、アルゴリズムの高速化などを行った。実空間グリッドのセルを空間分割することによって、QM系のDFT計算を並列化し、高い並列化効率を実現した(並列化効率=80%以上)。3.タンパク質の分子動力学計算を可能にする為に、Tinkerパッケージを編集して、上記2のDFTプログラムと結合し、タンパク質系に適用可能なQM/MMパッケージを完成した。同時にMM系の分子動力学計算の並列化も行った。さらに、上記1と同様に、イソアロキサジン環に付加する余剰電子を溶質とする方法を採用し、4種の溶媒からなる混合溶媒に対するエネルギー分布関数を構成するためのプログラムを作成した。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (3件)
Journal of Physical Chemistry B 111
ページ: 581-588
Journal of Chemical Physics 126
ページ: 084508
J of Molecular Liquids (in press)