本研究では、フローセルと蛍光測定装置を組み合わせた新しい一分子観測技術により、蛋白質の折り畳み過程を研究する方法論を確立し、シトクロムcと一本鎖モネリンについて一分子レベルでの折り畳みダイナミクスを理解することを目標とした。今年度は以下の成果を得た。 1、一分子観測用のさや流セルの製作:これまで使用してきたフローセルは、試料の流速が分子ごとに異なることや、ぼやけた背景光を拾うなどの欠点を持っていた。そのため、観測セルの内側に、さらに細いキャピラリーを導入したさや流セルを製作した。このセルでは、試料溶液を観測セルの中心部にのみ一定速度で流すことが可能である。 2、一分子観察用の反射光学系の製作:我々の手法で一分子を観察する場合、顕微レンズは焦点深度が浅いために背景光を拾いやすく、拡大倍率が高すぎるために、長時間の観察ができないなどの欠点を持っていた。そこで、光の集光効率は顕微レンズ並みに大きいものの、拡大倍率はカメラレンズと変わらない光学系を設計/製作した。 3、シトクロムcの変性状態のダイナミクス:シトクロムcの変性状態について得られる一分子ダイナミクスの解析を続け、二つの変性状態の中で、片方の状態の運動の相関時間が、他の変性状態に比べて長いことを見出した。また、この手法で得られたデータが、一分子の蛍光に由来することを証明するデータを集めた。これらの過程で、マ分子実験やデータ解析の方法について、全面的な検討を行った。 4、一本鎖モネリンの折り畳み過程の一分子観測:一本鎖モネリンに蛍光色素をラベルし、一分子レベルでの蛍光観測を行った。一分子から得られる蛍光データから、変性状態、あるいは、折り畳み状態にとどまる分子が多くある中で、中間状態と変性状態の間を頻繁に行き来する分子が存在することを見出した。
|