生体内の酵素反応の中で加水分解反応は非常に多く、古くからその反応機構の解明が行われているが、今もって正確に理解されているものは皆無に近い。本研究では、Mg^<2+>(Mn^<2+>)存在下8-oxo-dGTPを8-oxo-dGMPに分解することによって通常の生命活動で細胞内に生じる活性酸素の酸化でもっとも重大なDNA塩基損傷の一つ8-オキソグアニンのDNAへの取り込みを防御している大腸菌MutT(8-oxo-dGTPase)の加水分解反応の各段階のスナップショットを、低温トラップX線結晶構造解析法を中心とした動的蛋白質結晶学を用いて明らかにすることを目的としている。 昨年までに反応が起こるまでの構造変化がある程度分かったので、本年度は反応開始の遷移状態の構造とその後、生成物であるピロリン酸の解離に進む構造変化を捉えることを課題とした。 はじめにMn^<2+>の位置と占有度をMn原子の異常分散効果を利用して決める上で、最も有効なX線の波長を実験的に1.5Åと決定した。次に、この波長と通常の1Åの2波長データを1つの結晶で測定することによって、占有度を加味して周りの構造を精度良く精密化でき、より正確な反応中間体の構造を決定した。反応の同期性を高める浸漬条件の候補として、今年度10mM以上の高濃度のMn^<2+>溶液、数分から数10分を加えた。 大腸菌MutTに加え、ヒトMutTホモログhMTH1(大腸菌MutTと比較して基質特異性が異なる)とヒトNUDT5(8-oxo-dGDPを8-oxo-dGMPに分解する酵素)の反応機構解明についても対象を広げた。現在得ているhMTH1-基質複合体結晶では反応進行で結晶が壊れるので、別の結晶系の結晶作成を試みている。NUDT5については8-oxo-dGDPとの複合体の結晶化を行い、結晶を得た。放射光研究施設でのデータ測定を予定している。
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