1.高分子電解質と対イオンから成る系の分子動力学シミュレーションを行ない、対イオンの価数、静電相互作用の強さを変え、高分子電解質の自己凝縮の起こる条件と対イオンの高分子電解質の周りへの凝縮との関係について調べた。対イオンの価数、系の体積を一定として、静電相互作用を強くしていくと、高分子鎖の端点問距離の2乗平均は最初増加しその後減少する。最初の増加は、セグメント間の斥力が増し、高分子鎖が伸びたためである。その後の減少は、対イオンの凝縮が起こり、セグメント間の斥力が遮蔽されたためである。さらに静電相互作用を強くしていくと、高分子電解質の自己凝縮が起こり、端点問距離の2乗平均は、静電相互作用がないときの値より小さくなる。セグメント間の斥力と実3効的引力がつり合い、高分子鎖が理想鎖的に振る舞う場合、端点問距離の2乗平均と慣性半径の2乗平1均の比は6となる。高分子鎖の自己凝縮の起こる境界の判定条件としてこの条件を用いた結果、対イオンの価数1-4に対し、高分子鎖の自己凝縮の起こる境界において、対イオンの凝縮している割合が約90%であり、実験的に知られている結果との対応が確認された。他方、端点間距離の2乗平均が最大となるのは、対イオンの凝縮している割合が15%弱の場合であることも見出された。 2.3D-RISMをTINKERに組み込んだソフトを用いて、C-ペプチドのテストシミュレーションを行なった。まだサンプル数は不十分だが、蛋白質分子自身の静電相互作用と溶媒和自由エネルギーが反相関の関係にあることが分かった。蛋白質内の水素結合と蛋白質と水の間の水素結合の競合によるものと考えられる。 3.5残基からなる小ペプチドの真空中のモンテカルロ・シミュレーションを行い、緩和モード解析を行った。従来の研究に対し次のような拡張を試みた。(1)解析に用いる原子を従来のCαのみから、主鎖上の総てのCに増やし、より詳細な解析を試みた。(2)モンテカルロ・シミュレーションのダイナミクスの種類を従来の2通りから4通りに増やし、解析結果のダイナミクス依存性を詳しく調べた。
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