研究概要 |
広い時間領域(ps-Ms)で発現する水系の階層的動的構造の観測から,周囲の溶媒分子との相互作用で安定化される分子メカニズムを明らかにするための観測・解析から,以下の4項目に関する知見が得られた。(1)自由水の動的構造:「自由水」とは,他の分子と相互作用してスローダイナミクスを示す水として誘電分光で定義される。一般にスローダイナミクスは協同運動領域の増加として捉えられるが,誘電分光ではダイナミクスの平均的特性時間とゆらぎとの両方からの解釈できる。この新たなフラクタル動的構造解析を、高分子や液晶,リボソーム,たんぱく質水溶液,皮膚,食品などに適用したところそれぞれの特徴付けが可能であることが判った。一般の水系では実現できない広い濃度域で穀物-米を観測・解析し,その水構造の特徴についての知見を得た。またポリアクリルアミドゲルを水/ジオキサン,水/アセトン混合溶媒中で測定・解析したところ,水の液体構造を溶媒分子で破壊するとゲル構造がつぶれて収縮する様子が観測された。(2)分子鎖,結合水,イオンの動的構造:多糖類や合成高分子の水性ゲルを無極性溶媒のジオキサンで置換したところ,分子鎖ダイナミクスが立体障害の違いを反映する様子が観測された。さらに分子鎖が周囲の水やイオンと相互作用して示すダイナミクスの描像を検討している。(3)低温域挙動:たんぱく質や糖水溶液の低温域広帯域誘電分光から,ガラス転移が誘電分光による緩和時間の温度依存性で明確に定義できることを示し,糖水溶液の複数のガラス転移挙動の分子機構を誘電的挙動から解釈しようとしている。分子鎖が低温域で不凍水と相互作用して氷の形成する空間内で示すダイナミクスがガラス転移を引き起こす描象を得ている。(4)外場による構造形成:系の温度勾配によって,分子拡散の2つの駆動力(濃度勾配と温度勾配)が競合し,安定な濃度勾配が形成される(Ludwig-Sore効果)様子を,多糖類と合成高分子の水溶液で計測・解析した。デキストランとポリイソプロピルアクリルアミドの水溶液では,分子の不可逆な拡散現象はセグメント-溶媒分子間の相互作用の変化に大きく依存する事が確認された。熱的非平衡系の輸送現象が分子レベルの相互作用や構造形成に強く依存することから,今後タンパク質相互作用や機能に関する新たな知見が得られると期待される。
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