1.DNAの柔らかさの塩基配列依存性と水和パターン 4塩基配列の全配列パターン(136通り)について分子動力学計算を行い、DNAの柔らかさと水和パターンの関係を系統的に調べた。結果、DNAの柔らかさと水和パターンの間に明確な相関があることがわかった。その様子は、副溝における水のブリッジの4つのパターンでうまく説明できることを見出した。 さらに、DNAの柔らかさと水和パターンの間にこのような相関が見られる原因を調べるため、塩基の水素結合アクセプター原子の電荷を仮想的にゼロにした計算を行なった。結果、ブリッジ形成がDNAの柔らかさを決定づけるというよりむしろ、DNAの柔らかさが水和パターンを決定づけていることが示唆された。 2.中性子散乱実験によるDNA物性の測定 上記の結果を実験的に検証するために、最も硬い配列のひとつCGCGAATTCGCGと最も柔らかい配のひとつCGCGTTAACGCG(真ん中の4塩基の配列が異なる)のオリゴDNA粉末試料を相対湿度86%(室温)で水和させ、水の吸着量を測定した。結果、硬い配列の方が水の吸着量が多いことがわかった。この結果は分子動力学計算結果と一致している。 また、塩基配列CGCGAATTCGCGのオリゴDNA粉末を水和させた試料で非干渉性中性子散乱実験を行った。100Kから室温までのDNAの平均自乗変位を測定したところ、約240Kで急激な揺らぎの増大(動力学転移)が観測された。水和した蛋白質にも同じ温度で動力学転移が観測される。また、DNAの分子動力学計算によっても200K付近で動力学転移が見られた。これらの結果は、生体分子の構造変化を理解するためには、その水和状態を知る必要があることを示している。
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