研究課題
ハンチントン病(HD)はハンチンチン蛋白質(Htt)に存在するポリグルタミン鎖(polyQ)の異常伸長によって引き起こされ、神経細胞内での変異蛋白質の蓄積・凝集が主な病理学的所見である。本研究では、Htt凝集体に含まれる蛋白質の一つとしてTIA-1を同定し、TIA-1がHtt凝集体に取り込まれるメカニズムとして、polyQ線維によるTIA-1の線維化促進を提案している。TIA-1はRNA結合を行うN末端領域とstress granule形成にかかわるC末端領域(TIA-1^c)からなるが、培養細胞を用いた実験から、polyQ凝集体との共局在にはTIA-1^cが必須であることを明らかにした。線維の形成は「核形成」と「伸長」の二段階からなるが、ある蛋白質の線維が別の蛋白質の線維化の核として働くことが稀にある(cross-seeding)。そこで、polyQにTIA-1^cの線維を加えたものの、polyQの線維化に大きな速度論的変化はなかった。しかし、TIA-1^cにpolyQ線維を加えるとTIA-1^cの線維化が促進されることが分かった。細胞内においても、polyQ凝集体が核となりTIA-1が凝集体に巻き込まれる様子を生細胞観察により捉えることができ、R6/2マウスにおいても、変異Httが凝集した後にTIA-1がSDS不溶性になることを確認できた。以上の結果から、異常伸長したpolyQからなる線維状凝集体が他の蛋白質の線維化を促進していることが示唆される。さらに、polyQ線維を核としたcross-seeding機構により、様々な蛋白質の機能喪失が加速度的に進行すると考えられ、発症すると急速に症状が悪化する神経変性疾患の一面を説明できる可能性がある。
すべて 2007
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The Journal of Biological Chemistry (In press)