蛋白質はそのアミノ酸配列に固有の立体構造(天然構造)を形成することにより、機能を発揮することができる。しかしながら、最近、生体内外において、蛋白質が容易に凝集する現象がクローズアップされている。アミロイド線維は、これらの凝集の一種である。生体内でアミロイド線維が形成される現象は、アルツハイマー症候群、プリオン病などと関連することが、指摘されている。 従来、熱力学的・速度論的解析は、蛋白質の天然構造形成機構の研究において、重要な役割を果たして来た。一方、アミロイド線維形成に関する熱力学的解析法、熱力学的解析法は、未だ確立されていない。 本年度は、主にβラクトグロブリンをモデル系として以下の成果を得た。 アミロイド線維形成を含めた完全なエネルギー・プロファイル:βラクトグロブリンは、中性pHにおいて、尿素を添加することにより、アミロイド線維を形成する。このアミロイド線維形成反応の収量、速度は、尿素濃度に依存し、1mg ml^<-1>の蛋白質が存在する場合、4-5Mの尿素存在下で、最大に達する。この条件は、丁度、βラクトグロブリンの折れたたみ中間状態が最も蓄積されると考えられる濃度領域である。この反応を一般的な核形成律速モデルに当てはめることで、アミロイド線維、天然状態、折れたたみ中間状態、高度な変性状態を含めた、βラクトグロブリンのエネルギー・プロファイルを求めた。また、同解析から、各状態の自由エネルギーの尿素濃度依存性(m値)を見積もった。さらに、このm値は変性に伴う溶媒に露出した水との接触面積(ASA)に比例すると考えられることから、線維の端に取り込まれた蛋白質は、天然状態よりは、ASAが大きいが、折れたたみ中間状態よりもASAの小さな構造状態であることが示唆された。今後、同様な解析を他の系についても行い、様々な系での完全なエネルギー・プロファイルを明らかにすることが可能である。
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