モルヒネは古典的な生理活性アルカロイドであり優れた鎮痛作用を持が、一方で耽溺性やモルヒネ耐性といった作用を示す。モルヒネの生理作用における分子機構はモルヒネが示すm-オピオド受容体に対するパーシャルアゴニストとしての性質で説明されることが多い。しかし、他のk-あるいはd-オピオイド受容体を介した作用もあることが知られている。ゲノム解析によって発見されたMrgX2受容体はオピオイド受容体と同じように後根神経節で発現していることなどから、痛み刺激の伝達に関わっていると考えられており、最近内在性ペプチドであるコルチスタチンによつて活性化されることが報告された。我々はこのMrgX2受容体がモルヒネとその誘導体によって活性化されることを発見したので報告する。 MrgX2受容体を恒常的に発現するCHO細胞株を樹立し、受容体刺激による細胞応答を細胞内カルシウム濃度変化の蛍光測定で観察した。このMrgX2/CHO細胞をコルチスタチンで刺激するとコルチスタチンの濃度依存的に細胞内カルシウム濃度の上昇が観測され、そのEC_<50>は78nMであった。またMrgX2/CHOにmorphine、dextrorphan、3-methoxy morphaninを同様に作用させた場合のEC_<50>はそれぞれ4.5μM、1.4μM、4.7μMであった。またMrgX2受容体について脱感作の有無を調べるとコルチスタチンでもモルヒネでも脱感作が確認できた。さらにこの細胞をMrgX2受容体に付加したタグペプチドに対する抗体を用いて免疫染色した結果、MrgX2受容体がコルチスタチンやモルヒネの刺激によって細胞内移行している様子が確認できた。 MrgX2受容体はオピオイド受容体とはアミノ酸配列では相同性がないが、今回の結果から機能的にはMrgX2受容体とオピオイド受容体に類似性があることがわかった。またこれまではモルヒネの作用についての分子機構はオピオイド受容体を介した結果について議論されているが、今後はMrgX2受容体についても考慮して議論されるべきであると考えている。
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