研究概要 |
パプアミド類は強力な抗HIV活性を示すほか、さらに多剤耐性を獲得したヒトがん細胞やヒト白血病細胞に対しても特異的に細胞毒性を示すことが知られている。我々は不明の立体化学の解明とパプアミドBの全合成達成を目指して合成研究を行った。構造研究の過程で得られたトリペプチドに関するジアステレオマー4種全てを合成し、3-OMeTyrの立体化学を決定することを計画した。必要な3-OMeTyrの4っの異性体はGarnerアルデヒドから出発し、合成した。Hprから出発し、3-OMeTyr、N-MeThrを順次縮合し、4種のトリペプチドを得、これらの^1H-NMRを比較したところスレオニンの側鎖メチル基のケミカルシフト値から3-OMeTyrの立体化学は2R,3Rであることが明らかになった。Dhtdaの立体化学の決定はDhtdaを含む天然分解物の可能な8種の立体異性体全てを合成し、スペクトルの比較により立体化学の決定を試みた。合成の省力化のためにThr部分の立体化学が逆のものを活用し、1種のDhtdaから2種の分解物ジアステレオマーを得ることにした。そして理論上可能な8種全ての異性体の合成に成功した。これらの異性体の^1H-NMRおよび^<13>C-NMRを測定し、比較したところ天然物の2,3位の立体化学はsynであることが判明した。現在、さらに詳細な検討をしている。3-ヒドロキシロイシンの合成法として、我々は無保護α-アミノ・β-ケトエステルのアンチ選択的不斉水素化法による高立体選択的かっ高効率合成法の開拓に成功した。脂肪族3-ヒドロキシアミノ酸には野依らの開発したRu-BINAP触媒が、また、芳香族3-ヒドロキシアミノ酸には我々が見出したIr-MeOBIPHEP-I触媒が優れていることが判明している。これらの方法を用いて(2R,3R)-3-OHLeuと(2R,3R)-3-OHTyrを効率よく合成した。続いて(2R,3R)-3-OHTyrはProton Sponge存在下にメチル化し、(2R,3R)-3-OMeTyrへ導いた。この様にして新規脂肪酸、異常アミノ酸の合成が完了したので、次にパプアミドBの全合成へ研究を進めた。環状骨格とする閉環部位はラセミ化のおそれのないGly、Ser(Me)間を選択した。閉環前駆体となるヘプタペプチドを合成し、閉環反応はFDPPを用いて63%の収率にて目的とする閉環体を得ることに成功した。現在側鎖の合成に移っている。Pd法にて側鎖合成の出発点となるAlloc基を除去し、diMe-Gln誘導体と縮合することに成功している。あと少しで全合成が完成する段階に来ている。
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