研究課題
トランスクレロダン型ジテルペノイド サルビノリンAは中枢神経系に作用し、含窒素化合物をしのぎ既知化合物の中で最強の幻覚作用を示す。そのため、アルツハイマー病、二極障害(躁鬱病)などの治療のためのリード化合物として大きな期待が寄せられている。全合成はまだ報告されていない。本研究では、サルビノリンAおよびその類縁体の最初の全合成を目的とした。出発原料となるWieland-Miescherケトンの合成には、我々の開発した方法が多くの研究者により利用されてきた。過去10年間で60報以上の引用例がある。しかし、アミノ酸を1当量とカンファースルフォン酸を0.5当量必要とするため、特に高価な非天然型のアミノ酸を用いるときに問題が残る。アミノ酸の当量を減らすと生成物の光学純度が落ちるため、そのリサイクル使用を検討した。アミノ酸のリサイクル使用に際しては、イオン液体[hmim]PF_6を反応媒体とし、ジメチルイミグゾリジノンを共溶媒とした。その結果、少なくとも5回、化学収率および光学収率を大幅に落とす事無く、アミノ酸とイオン液体のリサイクル使用を行う事が出来た。サルビノリン類には特徴的なフロラクトン構造が存在する。フロラクトン構造の構築には、Methyl Barbascoateの全合成に際し我々が確立した方法があった。しかしその方法は反応工程数に問題が見られた。そこで、より短段階の構築を目指し、Pd触媒を用いる一酸化炭素挿入反応を検討した。Wieland-Miescherケトンのケタール体のエノンγ-位の酸素酸化により水酸基を導入した。これを保護した後、液安中での還元的アルキル化により酢酸ユニットを導入した。飽和ケトンをCommins試薬によりエノールトリフレート化した後、酢酸ユニットをWeinrebアミドに導き、さらにフリルリシウムとの反応によりフリルケトンユニットへと変換した。こうして得られたエノールトリフレートをPd触媒存在下一酸化炭素雰囲気下で反応させたところ不飽和エステルの導入に成功した。反応の各段階ともほぼ満足すべき収率で進行し、この結果、サルビノリンのフロラクトン構造構築のための新しい方法を見出し、サルビノリン全合成への道を拓く事が出来た。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (3件)
Journal of Organic Chemistry. 71巻12号
ページ: 4619-4624
Tetrahedron Letters 47巻30号
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