医薬品には、完全人工合成物、天然物そのものまたは天然物からの誘導体が利用されている。しかし、天然物のみからの誘導体を利用する手法には限界がある。そこで、天然物の全合成と共に、その研究から生まれる合成中間体から天然物類縁体を合成することを目的として研究した。具体的には、特異骨格をもち強い生物活性を有するパクタマイシン、ラクトナマイシン、フォモプシンA、シオマイシンAの合成研究を実施した。それらの中で本年度はシオマイシンAの全合成を達成することができた。 シオマイシン類は1961年に塩野義製薬のグループによってStreptomyces sioyanensisの培養液より単離されたペプチド性チオストレプトン系抗生物質である。その構造は、構成成分のほとんどが異常アミノ酸からなる2環性(A環とB環)ペプチドであり、他の天然物には類のない極めて複雑かつ特異な構造をもつ。これらシオマイシン類の中でシオマイシンAを標的化合物とした。シオマイシンAを5つのセグメントに分け、まずそれらセグメントの効率的な合成方法を確立した。ついで、セグメントAとセグメントCをエステル化((1))した後、セグメントDを縮合((2))し、さらにセグメントA-D間で環化((3))することによりA環ペプチドを構築した。次に、セグメントBを縮合((4))した後に、位置選択的環化((5))ならびにセグメントE伸長((6))をワンポットで行い、B環ペプチドを構築した。最後に脱保護と酸化的脱離により、シオマイシンAの全合成を達成した。 このように複雑な構造をもった天然物の全合成が完了したことにより、合成中間体が入手できたことになる。これら合成中間体は天然には全く存在しない化合物であることから、今後その生物活性が期待される。
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