研究概要 |
アスタコラクチンはギリシャのアスタコス湾に生息する海綿から2003年にRoussissらによって単離された新規有機物質である。アスタコラクチンは8員環ラクトンとポリオレフィン部位からなり、一般に形成困難とされる中員環ラクトンを分子内に含むため構造化学的ならびに有機合成化学的に非常に興味深い化合物である。我々は2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)を用いる中員環形成反応を活用し、この一年間で目的分子の基本骨格の形成に成功した。すなわち、市販の(E,E)-ファルネソールより誘導したアルデヒドに対しアルドール反応を行った後、過酸化水素を用いた付加体の脱セレン化によってエキソオレフィンを合成した。ここで得られたオレフィンから数工程を経てアリルアルコールを調製した後、オルソエステルを経由するクライゼン転移を行い対応する変換体を得た。エステル部位を還元し得られたアルデヒドのアルドール反応によりシン付加体ならびにアンチ付加体を得た。興味深いことに、シン付加体とアンチ付加体の混合物を用いてそれらのチオエステル部位を加水分解したところ、シンの付加体の脱離反応のみが速やかに進行するとともに、シン付加体は対応するオレフィンへと変換されたため、目的の化合物であるアンチの立体配置を有するセコ酸のみを入手することができた。このセコ酸に対してMNBAを用いたラクトン化を行うことにより高収率で8員環ラクトンを得ることに成功した。
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