生体機能分子の探索・創製においては、その誘導体合成をも容易にするような簡便かつ効率的な合成法の確立が強く望まれる。古来より、イソキノリン類やインドール類を始めとするアルカロイド、さらには多くのテルペン類には興味ある種々の生理活性を示す化合物が知られている。しかしながら、それらの合成においては多段階を要したり、また複雑な試薬や反応条件等を必要とするものが多い。今年度の研究においては、我々の開発したヨウ化サマリウムによる位置選択的炭素-窒素結合開裂反応を鍵反応として用いることにより、α、α-二置換アミノ酸であるデオキシダイシベタインのキラル合成および強力な鎮痛活性を有するアファノルフィンのキラル合成に成功した。アファノルフィン誘導体の簡易合成法の確立は、今後オピオイド受容体選択的鎮痛薬の探索に有用な手段を提供するものと考えられる。また、コバルトカルボニルを反応剤とするエンイン環化を鍵反応として、潜在的鎮痛薬として期待されるインカルビリンの立体選択的合成も達成することが出来た。本合成はオピオイドとは異なったメカニズムを有する新たな鎮痛薬の開発に繋がる可能性を秘めている。上記合成は用いた試薬の特性を有効に活用したものである。一方、海洋産物の一種として単離されたウピアールはビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を有する特異なテルペンである。本化合物の合成においては、アリルシランの分子内カルボニルーエン反応を基盤とすることにより、15工程、総収率10%以上で目的を達成することが出来た。この反応はパラトルエンスルホン酸を用いるという極めて温和かつ効率的なものであり、今後の更なる発展が期待できるものである。
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