本研究では、がん組織へ誘導される未熟な新生血管内皮細胞を選択的に障害する微小管脱重合活性化合物の開発とその機能にせまる研究を行っている。この様な化合物は、新生血管の内皮細胞障害により血流の途絶を起こすことで、がん細胞の増殖に必要な栄養と酸素の供給を遮断し、抗がん効果を発現する腫瘍新生血管内皮細胞障害剤(VDA)と言われる。その候補化合物として、天然より単離された環状ジペプチド「フェニラヒスチン」(PLH)に注目し、構造活性相関研究から、誘導体KPU-2/NPI-2358を既に開発しているが、本物質については、今期前臨床試験が終了し、大学発の医薬品開発として米国にて抗がん剤の第一相臨床試験に進むことができた。一方、一連の誘導体合成研究から、このKPU-2の誘導体として、ベンゾフェノン構造を有するKPU-244が強力な活性を有することも明らかとなった。ベンゾフェノンは光照射によりラジカルを発生し、蛋白質中の結合部位近傍のアミノ酸α炭素をアフィニティーラベルすることが可能である。そこで、KPU-244分子にさらにビオチン構造を付与した光標識プローブの合成を進めて、今期その合成に成功した。この誘導体を用いて標的蛋白であるチューブリンの光標識試験を行ったところ、このプローブは特異的にチューブリンを標識することができ、更にこの標識はコルヒチン存在下に濃度依存的に阻害された。このことからKPU化合物はチューブリン上のコルヒチン結合部位に結合していることが再確認された。今後更にこの様なケミカルバイオロジーの手法を用いて、詳細な結合様式の解析を進め、何故この様な小分子が巨大な微小管を脱重合に至らしめるのかの機構解明を進める予定である。
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