研究概要 |
一度の反応操作で数種類の反応を連続的に行い,複数の結合を構築するドミノ型反応は有機溶媒の使用量の削減や精製過程の省略化を実現でき,グリーンケミストリーに適した反応である.しかし,大部分のドミノ型反応は,イオン種またはラジカル種のみからなる連続型反応でありラジカル反応とイオン反応を連続的に組み合わせた反応はほとんど報告例がない.我々はアルケンまたはアルキンと共役したオキシムエーテル類の新規ドミノ型炭素-炭素結合反応としてボリルエナミンを経由するラジカル付加-アルドール型反応および硫黄ラジカルの付加を基盤とする新規ドミノ型反応を検討中であり,所期の目的を達成しつつある. 1.タンデム型ラジカル付加-アルドール型反応 前年度確認した重水中での反応およびNMRサンプルチューブ内でのラジカル反応によりE-(N-ボリル)エナミンの生成結果に基づいて、タンデム型ラジカル付加-アルドール型反応の系統的検討を継続した。その結果、アルケンと共役したオキシムエーテル類から位置選択的ラジカル付加,アルドール型反応さらにラクトン化に伴うカンファースルタムの脱離が連続的に進行したγ-ラクトン体を高収率で与える一般的合成法を開発できた。また、アルキンと共役したオキシムエーテル類からもほぼ同様なタンデム型反応が進行する基礎的結果を得た。応用研究として(-)-マルチネリン酸の形式合成を行った。 2.イミン類の新規ヒドロキシスルフェニレーション反応 共役イミンの連続的複数結合形成反応の開発研究の一環として、アルケンと共役したオキシムエーテルと硫黄ラジカルとの反応を検討した。ラジカル開始剤としてトリエチルボランを用いてチイルラジカル付加反応を行ったところ、予想した1,4-付加体は全く得られず、水酸基が導入されたβ-ヒドロキシスルフィド体が高収率で得られた。本反応はトリエチルボランをラジカル開始剤として用いた初めてのヒドロキシスルフェニレーション反応の例である。
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