金属酵素の活性中心は、金属とそれを保持するアミノ酸残基の配位によって構成される。これら機能発現には第一配位圏のみならず、第二配位圏が大きな役割を担っている。そこで酵素活性中心を取り囲むアミノ酸残基のモデルとしてシリカメソ多孔体(FSM-16)を用い、そのメソ孔に存在するシラノール基の配位を介して錯体を固定化した。固定化にはRu錯体を選択し、軸配位子によって酸化触媒活性を制御できる平面型ビピリジルアミド配位子BABPの錯体[Ru^<II>(babp)DMSO)_2]を用いた。ヨードシルベンゼン(PhIO)を酸化剤として用い、シクロヘキセンの酸化を行ったところ、固定化触媒のFSM-Ruは均一系の触媒である[Ru^<II>(ba bp)(DMSO)_2]と同様に約8割の高選択性でエポキシドを与え、酸化触媒として機能した。tBuOOHを酸化剤として用いた場合では、均一系の[Ru^<II>(babp)(DMSO)_2]は反応生成物の選択性を示さず、アリル位酸化生成物とエポキシドをそれぞれ与えたが、それに比べて固定化触媒のFSM-Ruはエポキシドの生成量が多くアリル位酸化生成物の生成量は少なくなった。また、アリル位過酸化物の3-tert-ブチルペルオキシシクロヘキセンの生成はtBuOO・が系中で生成し、酸化剤を反応初期に100当量添加するこの条件においては、より量論的な反応に近い条件で逐次的に添加した場合ではアリル位過酸化生成物の生成が著しく抑えられ、酸化剤の添加方法が選択性に著しい影響を与えることがわかった。また、反応後のFSM-Ruを濾過により回収し、再度酸化反応の触媒として用いたところ1回目と比べて触媒活性の低下が見られず、エポキシドの選択性が74%に向上した。これは、一旦酸化反応に使用したFSM-Ruのルテニウムの酸化数は+3価であり、tBuOOHとの反応によってエポキシ化活性を有するRu^v=O種が生成するためと考えられる。
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