研究概要 |
水を密封容器内で加熱した場合,容器内の圧力の上昇とともに液体の水が全て気化せずに気液平衡を保ち,水の温度はどんどん上昇していく。やがて374℃,22MPaで臨界点に達し,気体・液体の区別がなくなり,超臨界状態と呼ばれるようになる。この沸点を越えて,臨界点に達するまでの領域を亜臨界領域あるいは水熱状態と呼んでいる。従来の多くの超臨界及び水熱状態の水での有機反応は,1)高温・高圧反応条件に疎水性相互作用が加わることにより「より強化された」反応条件となることを利用するものと,2)加熱によりイオン解離平衡のイオン側への傾きが大きくなり,酸を加えることなく高温状態で生じるプロトンを酸触媒として用いるもの,この2種類に分類することができる。しかし,ここに遷移金属触媒を加えた場合,高温水による触媒の酸化が起こることを考慮しなくてはならない。この反応を利用すると,C-H結合活性化を軸とする分子変換反応が水を酸化剤として行なえる可能性がある。亜臨界状態の水がパラジウムや白金に酸化的付加することを仮定すると,金属ヒドリドのカチオン種が生成することが考えられる。このような活性種はC-H結合活性化を行ない,非常に有用な活性種となる。この反応活性種を用いて従来不可能であった重水素化化合物を有機分子中の軽水素を重水素に置き換えることにより調製することを可能にした。
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